クリニカルパス(以下、CPとする)とは、ある疾患を持つ患者に対して、縦軸をケア介入、横軸を時間軸としてまとめた治療計画表である。CPには医療コスト削減、標準化の推進、医療事故低減などさまざまな質向上への効果があるとされている。
現在各病院によってさまざまなCPが作成されているが、その多くは外科系疾患に対するものである。それはCPが治療計画の標準化という性格を持つため、治療計画が明確である外科系疾患に対して導入、作成されることが多いからである。一方内科系疾患では各患者によって症状の度合いやばらつきが大きく、治療計画を標準化することが困難であることが多い。さらには診断がついていない症候については診療の標準化はより困難であると考える。
失神とは「身体の緊張の喪失を伴う突然かつ短い意識の喪失」と定義される。特徴として、日常よく遭遇する症候である、ときに突然死の危険性を有する、その原因確定が困難なことが少なくない、などがある。失神の診療においてはそうした特徴からさまざまな検査がなされ、なかには無駄なものも多く、危険な疾患が見逃されたりする可能性がある。CPを作成することで診療の標準化や質の保証された医療の実現を試みた。
まずは失神と考えられ入院を要した症例を後ろ向きに検討し、どのような診療がされているのかを整理した。期間は平成14年4月1日~9月30日。対象は意識消失を主訴に救急外来を受診し以下の条件を満たし失神の精査加療目的で入院となった55症例を対象に、カルテレビューを行った。条件とは、一過性の意識消失が確認されている、救急外来受診時意識の回復を認めている、意識消失していた状況が不明確、とした。検査内容、入院期間、原因について解析を行い、失神CP適応基準シートと失神CP、失神入院治療計画書(患者用説明書)を作成した。
失神CP適応基準シートは失神の外来での初期評価において必ず行うべき項目をチェックシート形式にして明記した。項目は意識消失前の状況、意識消失時の自覚症状、意識消失時の状態、以前に同様の症状があったか、日常生活、既往歴、薬剤歴、家族歴、心原性を示唆する心電図について各々示した。また適応基準および除外基準を明記した。失神の可能性が高い患者の診療には失神CP適応基準シートを使用するよう促し、基準を満たすものについては失神CPおよび失神入院治療計画書を使用するよう促した。失神CPは入院期間、行うべき検査、医師の確認項目を明記した。文章の作成には当時の最も知られている2つの失神のガイドラインを参考にした。
現在、失神CP適応基準シート、失神CP、失神入院治療計画書は救急外来に常備し、初療医が常時使用可能な状態となっており、いままで多くの症例において適応・使用されている。経験の浅い初療医でも何をするべきかわかるようなマニュアルの役割も果たしている。
(2010-7-14)