簡単そうで実は危険な手技――経鼻栄養チューブ挿入

滋賀医科大学医学部附属病院 医療安全管理部 坂口 美佐

医療安全全国共同行動“いのちをまもるパートナーズ”の行動目標3「危険手技の安全な実施」には、経鼻栄養チューブと中心静脈カテーテルの2つの項目があります。「えっ、経鼻栄養チューブの挿入が危険手技?」と疑問に感じる方もいらっしゃるかと思います。でも、経鼻栄養チューブに関連した医療事故は少なくありません。
なぜ、経鼻栄養チューブが危険なのでしょうか。それは、チューブが誤って気管支・肺に挿入された状態で栄養剤を注入することにより、肺炎を引き起こし、死亡に至ることがあるからです。また、チューブが肺を突き破って胸腔内に入ってしまった事例も報告されています。
経鼻栄養チューブが正しく胃に入っているかどうかを確認するには、どうしたらよいでしょうか。以前から、チューブに空気を注入しながら聴診器で「ゴボッ」という音を聴く方法が広く行われていましたが、この方法だけで確定判断とするのは危ないということがわかってきました。英国では「空気注入音の聴診で確認してはいけない」という注意喚起がされています。
支援チームでは、より確実な方法として、X線撮影、pH測定をとり入れたマニュアル作りを推奨しています。また、経鼻栄養チューブの安全管理は、「誤挿入ハイリスク患者の識別」や「上手なチューブ挿入法」なども含めて、包括的に考えていく必要があります。一見シンプルな手技のようでいて、実は奥が深いのです。まだエビデンスの少ない領域ですが、ヒト、モノ、そして技術といったさまざまな面から改善できるところがきっとあると思います。パートナーズで情報交換しながら、みんなで取り組みを進めましょう。