周術期肺塞栓症の予防~ガイドラインの改訂へ~(目標2)
三重大学大学院医学系研究科 循環器・腎臓内科学 中村 真潮
日本における周術期肺塞栓症の予防は、2004年に10の学術団体が協力して策定した「肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症予防ガイドライン」の公開から徐々に普及してきました。ガイドラインが策定される頃までは日本におけるエビデンスがほとんどなく、初版のガイドラインは欧米のものを日本でも使用できる形に改変したものでした。しかし、肺血栓塞栓症予防管理料の保険収載とも重なり、周術期肺塞栓症の予防は日常臨床に確実に根付きつつあります。そして、ガイドライン公開から6年が経ち、日本人に関する情報もかなり蓄積してきました。また一部の領域では低分子量ヘパリンやXa 阻害薬など新しい抗凝固薬も使用可能となり、まさにガイドラインを改訂すべき時期となりました。すでに多くの学術集団が参加したガイドライン改訂作業が始まっています。
新しいガイドラインではこれまでのガイドラインを基本としつつも日本人でのエビデンスをより多く取り入れ、日本の臨床現場にさらに適したものを目指して改訂されます。また、普及が遅れている薬物予防が適切に運用されるようにすることも大きな課題です。そして、すべての医療従事者にとって理解しやすいガイドラインの策定が試みられるでしょう。しかし、ガイドラインの改定が行われても、実際の臨床現場における対応は今までと変わるものではありません。ガイドラインを理想的な一つの手本としながら、それぞれの施設の実情に合わせたマニュアルを作成し、実際に運用するなかでより理想に近いものにしていけばよいと思います。日本における周術期の肺塞栓症予防はまだまだ発展途上段階です。大小さまざまな施設の取り組みや成果をもちより、みんなの力で日本に適した予防指針を作り上げていくものだと考えています。