どう考えても一番安全なCVC挿入方法はPICCです(目標3b)

川崎病院 外科 総括部長 井上 善文

photo 1994年から私は肘から挿入するPICC(peripherally inserted central catheter:末梢挿入式中心静脈カテーテル)を使用していました。1997年には論文も発表しております。気楽に挿入できる、気胸や血胸などの重篤な合併症が発生しない、患者さんたちの恐怖心を弱めることができる、などの利点があります。しかしその後、償還価格の問題や、肘を曲げると滴下が悪くなる、静脈炎の発生頻度が比較的高い(20%程度)という理由でほとんど使用しなくなっていました。
その後、世の中はリスクマネジメントが医療上の大きな命題となり、CVC挿入に伴う死亡事故なども社会問題となりました。根本的な原因は教育にあるのだと思っています。CVC挿入方法についてきちんとした講義も受けず、勉強もせず、見よう見まねで実施していることが原因であることは間違いないのです。そこを解決せずにリスクマネジメントをやっても…という気持ちはありますが。

 2005年12月にUSA、シンシナチのクライスト病院でエコーガイド下のPICC挿入技術を学んできました。穿刺時に重篤な合併症は起こらないと言ってもいいでしょう。肘を曲げても滴下不良という問題は起こらず、静脈炎もほとんど発生しません。エコーやレントゲン透視を使ったり、いろんなシステムを確立したりしても、大血管などが近傍にある鎖骨下穿刺や内頸静脈穿刺では絶対に問題は起こらない、ということはないでしょう。また、『怖い!』でしょうね。顔の上に覆布がかかって何も見えなくなった状態で首や胸に針を刺される、自分がその立場になったら…と考えると、できたらこんな医療は受けたくないと思いますよね。それに、覆布がかかったら、実際に穿刺をしてくれると思っていた指導医が小さな声で『やってみるか?』と研修医にやらせる、そんなことがあるのですから、患者さんたちはたまったものではない、そんな気もします。PICCという方法がなければ、仕方ないと思いますが。

photo 私がこの技術を修得してから、当院の外科では重症症例でカテコラミンなどの投与やCVP測定が必要な場合以外は、全例上腕PICCです。鎖骨下穿刺を受けたことがある患者さんは、上腕PICCについて、『こんな楽な方法があるんですね。こっちのほうがはるかに楽だし、怖くない』と言います。もう300本以上上腕PICCを挿入していますが、先端位置異常以外の問題は発生していません。
どう考えても、一番安全で、かつ、患者さんにとって楽な方法がPICCです。もちろん病院にとっても主治医にとっても安全な方法です。ただし、私は、肘からの挿入ではなく、上腕からの挿入をお勧めします。