目標1[危険薬の誤投与防止] Q&A
2010/06/02 追加
Q.危険薬は袋に入れて“危険薬”と表記して薬剤科より払い出しされていますが、危険薬についての小テストや勉強会を実施したいと思っています。どんなことに留意したらよいでしょうか?
A.すでに危険薬を払い出す際に「危険薬」のリマインダーを添付されているようで、職員の意識付けが進んでいるようです。出題には、薬品名の選択問題や少し踏み込んだ応用問題(濃度計算)、疾患と禁忌薬の組み合わせなど、いろいろな問題を出すことが可能ですが、各施設において、まずこれだけは覚えて欲しいという重点を絞って行うとよいでしょう。
Q.持参薬を、薬剤科による一元管理ができればよいと考えていますが、マンパワーが足りなくて困っています。まずは病棟サテライトを1病棟だけ作りたいと考えていますが、アドバイスをお願いします。
A.病棟サテライトを作られるのは1つの方法だと思います。実績を作られ、必要性をアピールし続けることも必要かと思います。一元管理は理想ですが、各病棟担当薬剤師がいるのであれば、担当薬剤師に病棟分を管理してもらうのはどうでしょうか。
Q.オーダー時にアラートが出るようにしたり、注射セットに注意書きを入れたりしていますが、あまり多すぎても目にとまらなかったりします。重要なことを選ぶようにはしていますが、連絡したいことが多く、どう選別していけばよいか迷います。同様に、調剤棚や薬品棚に貼る注意書きも、貼りすぎてスルーしてしまう場合があります。どう考えればよいでしょうか?
A.いわゆるリマインダーは、初めのうちや、少ない場合には有効ですが、どんどん印象が薄くなったり漫然とやり過ごしたりで効果がなくなります。危険性などで優先順位を付けて実施され、それ以外はリーフレットや何らかの方法でアナウンスを続けてはどうでしょうか。薬局内に関しても、絞り込んで、それ以外については何度も何度も繰り返しミーティングなどで伝えるようにしてはいかがでしょうか。
Q.内服薬の標準化がなかなか進みません。
A.内服薬に関するインシデント・アクシデントの件数はどこの病院でも上位を占めています。その標準化は医療安全のなかでも、もっとも基本的な領域であるため、病院の総力を結集してとりくむという考え方が重要と思われます。 薬剤師、看護師、医師のみならず、患者さんも巻込んで、可能なら院長先生が音頭をとることが有効と思われます。以下のような手順で進めてはいかがでしょうか。 [1]検討を進めるためのワーキンググループ(当然医師も含めて)を立ち上げる。[2]まずは、現状はどうなっているのか、投薬をすると決めたところから、服薬確認をするところまでの手順を順を追って詳しく書き出す。フローチャートを併用するのもよいでしょう。 [3]それらが各部署でどのようになっているか、曖昧なところや、部署によって異なるところを確認します。[4]インシデント・アクシデントが多く発生している等の問題のある手順の部分は、十分議論して、新たな手順に改訂してみることも検討します。[5]新しい手順をモデルとなる部署で試行してみます。[6]問題点を修正して新手順書を全部署に周知して実施します。[7]新たな手順を実施するときには、職員に十分説明して配布し、 理解を得ることが必要です。[8]医師の投薬指示は、必要項目がきちんと記載されるような様式を考慮してください。[9]変更や中止のルールについても、記載欄、書き方等決めておくことが肝要です。[10]中心的にすすめる熱意あるスタッフの存在は重要です。
Q.「世の中で医療安全のこういうとりくみがあるよ」という情報が入ると、「それではうちも同じようにやろう」ということになり、負荷がふえてきます。当院では今ではKCL等のアンプルには「要希釈」などの表示が入り、すでに病棟在庫は徹廃しており、払い出し時には薬剤師が処方を確認して、点混指示を確かめています。そして実際インシデントは起こっていません。にもかかわらず「リマインダーをつける…」に取り組もうと提案されています。物と労力のムダを省くため、「何でもかんでもやればよい」というものではないと思いますが、理解が得られません。
A.共同行動の趣旨は目標の1から8まで、目標1(危険薬)の中の1から16をすべてやりましょうというものではなく、現状を振り返ってみて、問題解決するために今一番急ぐべきものを拾い出して、同じ目標に向かってみんなで取り組もうというものです。貴院のKCLのようにルールとして確立したものがあって、ミスが起きないシステムがあるのであれば、そのほかの対策へ移っていただければと思います。また、成功事例としてぜひ情報を提供していただければと思います。
Q.インスリンのスライディングスケールの標準化をしたいのですが、なかなか医師たちの一致した同意が得られません。
Q.スライディングスケールを作成したいと思いますが、医師の協力が得られません。
Q.DMのインスリンスケールの標準化を考えているのですが、関わっている2人の医師の考え方が違うため、うまく話が進みません。できれば、絶食、遅食での検査前のインスリン量、低血糖時のインスリン量などもその都度指示をもらうのではなく標準化できればよいと思っています。
A.スライディングスケール(SS)については医師によっていろいろな考えがあり、さらに個々の患者で高血糖をコントロールするのが望ましいわけですが、実際にはSSを使用せざるを得ない状況だと思います。しかし、複数のSSの存在は、業務の煩雑化のみならず、重大な事故の原因になりかねません。内科(内分泌の先生であればなおよいですが)の先生を中心に案を作成され、カンファレンスなどで十分練られたらどうでしょう。以下のURLは参考になるかもしれません。 http://www.ndpjapan.org/material/ss.htm
Q.院内緊急カート内でイノバンシリンジに統一しようとしましたが、循環器医師がイノバンアンプル、ドプミンアンプルでなければならないとしたため、両方採用となって、緊急カートの統一がされていません。どうしたらよいでしょうか?
A.救急カートは一つの部署に複数設置されていると思いますが、あそこのカートにはあるのに、このカートにはないなどでは煩雑ですし、実際の救急時に対応が遅れるかと思います。施設の事情もあるかと思いますが、どの場所のカートにも同じものが準備されているのが理想です。その循環器の先生を中心に話し合ってはいかがでしょうか。
Q.救急カートの院内統一に、ぜひ取り組みたいと思います。
A.救急カートの院内統一は重要な課題ですが、すべての薬品等を全部署同一にすることは必ずしも現実的ではないと思われます。救急医療にある程度詳しい医師やスタッフをメンバーに加えてワーキンググループを作って取り組むのがよいでしょう。全部署の救急カートに配置されている薬品、備品のリストを作成します。共通する薬剤、救急時に使用する頻度の高い薬品を選択して共通部分とします。共通部分は、並べ方や個数を極力一致させるようにします。その他の薬剤については、各部署で必要に応じて追加することとします。定期点検の方法、薬剤の有効期限の確認等も、同時にルールにしておくとよいと思われます。
Q.紙カルテを使っており、注射指示箋の記入方法は統一しているのですが、医師たちがそれぞれ独自の記入をするため、なかなか前進しません。医局での討議はどう進めたらよいでしょうか。標準化の具体的な取り組みを教えていただきたいと思います。
A.【回答1】注射指示箋の手書き記入は、医師にとっては煩雑な仕事であるため、十分な協力が得られないことも多く、看護師が指示を清書したり、指示箋の転記をして対応している病院もあるかもしれません。しかし、これは推奨されませんし、医療機能評価でも厳しい指摘をされるようです。 医師の協力を得るためには、院長先生が、医療安全が病院にとって重要な課題であることを宣言したり、病院目標の上位に掲げることが重要と考えられます。 また、注射指示箋の記入不備のためにどのような問題が発生しているか、過去のインシデント・アクシデントを拾い上げて、注意喚起することも有効です。 医師も含めて議論する場合、たとえば注射による事故をなくすためには何が必要かといった観点で十分に議論してみると、医師の注射処方箋の記載のみならず、薬剤師や看護師もそれぞれ医療安全に必要な役割を担っていることがわかってもらえると思います。医師のみの負担ではなく、全員参加で進めていることを確認できれば理解も深まるのではないでしょうか。【回答2】注射箋の指示記入方法の統一はされているようですので、守ってもらうために医療安全管理委員会や診療録管理委員会などで再度病院の標準になっていることを確認し、医療安全管理に関わっておられる医師から医局会議などで徹底してもらうように話してもらうことが必要と思います。回答者の施設では医局会議で医療安全管理室長の副院長が徹底を呼びかけています。指示箋の記入に関連するヒヤリ・ハット報告事例など具体的な事例を報告することで、記載方法を守ってもらうことも有効ではないでしょうか。当院では医師用の『医療安全マニュアル』を作成しています。処方箋の書き方、抗がん剤のプロトコール、各同意書などを記載しています。この中に指示箋の書き方も入れるとよいと思いますし、このマニュアルに記載されたものがその病院の標準になると思います。
Q.注射指示の標準化に関してアドバイスをお願いします。処方せんは指示を手書きにて「分3」や「3×日」をやめる、注射指示は1回量を書いて「○時○時2回/日」とすることとし、化学療法のプロトコール化準備をしています。次に審査制度も取り入れることが大切と思っています。標準化の進め方としては、医師の中から推進役として標準化案から参加してもらい、自らが作成したことにはやらざるをえない方向へもっていくようにしたいと思います。
A.インシデント・アクシデントの中で、指示が曖昧だったため発生した事例が相当あるのはご存知のとおりです。なかなか初めは協力が得られにくい部分ですが、病院幹部や医長クラスの先生方を入れたワーキンググループを作り、病院のルールとして取り組んでいくのが早道だと思います。
Q.配薬の間違い防止について、アドバイスをお願いします。1日分ずつお渡しする際、配薬ケースの朝、昼、夕と区分けされたところからの取り間違いがあります。看護師が配膳時にお膳におくことになっていますが、その前に患者さんが取って内服したり、看護師の確認が不充分で誤薬したりすることが多々あります。すべて1回渡しにするには患者数が多くて対応できません。
A.すべての患者さんに配薬されているのでしょうか。自己管理できる患者さんは本人で管理してもらい、対応が必要な患者さんを絞り込めばよいのではないでしょうか。完全に服薬まで確認が必要な患者さん、配薬までで大丈夫な患者さん、自己管理できる患者さんと区別して対応してはいかがでしょうか。また、配薬ケースは朝・昼・夕を色で区別したり、文字を大きく表示したりしてみてはいかがでしょうか。確認のルール作りとともに配薬ケース等の用具の見直しも併せて検討することは意味があると思います。【回答2】内服薬の渡し間違いに、患者間違い、渡す薬の間違いがあると思います。患者間違いについては、患者さんに名前を名乗っていただきお渡しすることでなくすことが可能です。しかし、その時も看護師は薬袋や薬包の氏名を指差し確認、または患者さんとのダブルチェックをすることが大事です。回答者の施設では服薬チェックシートを作成し、服薬したことのチェックを行っています。自己管理のできる患者さんについては自己管理してもらいますが、まずその患者さんが自己管理できる方かどうかを、評価票を用いて評価します。その後、翌日、3日目、7日目に残数を確認するなどで自己管理ができているかを評価することにしています。服薬に関しては薬剤師にも指導してもらうようにしています。服薬チェックシート使用も時間はかかりますが、確実に投与することを優先することにしています。
Q.持参薬の管理に関して、種類が多く数が合わない、当院の処方でない薬剤がたまにあって合わせるのに時間がかかる等、苦慮しています。
A.各病棟担当薬剤師がいるのであれば、担当薬剤師に確認、整理などをしてもらうのはどうでしょうか。
Q.入院時持参薬をパソコンにとり込み、一時中止や、再開始にどのように対応していくか検討しているところですが、どんな注意が必要でしょうか?
A.指示を出す医師と、指示を受ける看護師のルールを確立させる必要があります。業務の流れをフローチャートで可視化して、確実に指示を出すポイントと方法、確実に指示を受けて実施に移す方法を、それぞれ決定しなければならないと思います。まず、叩き台のフローチャートを作成し、医師も含めて議論をする必要があります。また、各病棟ごとのルール作りではなく、全病棟統一されたルール作りが大切です。持参薬をPCへ入力する際は、薬品名のみならず規格等も十分注意して入力する必要がありますので、できれば薬剤師(病棟担当)が作業を行うのが理想的だと思われます。
Q.入院時持参薬について、現在プロジェクトチームを編成し取り組んでいる最中です。診療科毎に記載方法等が異なり、標準化に持っていくのが大変むずかしいところですが、何とか進めたいと思っています。
A.持参薬の管理表を思い切って統一してみるのはどうでしょう。以下のURLはNDPが作成した持参薬の管理指針と管理表ですが、薬剤鑑別と継続指示の有無も併せて利用ができます。http://www.ndpjapan.org/material/mochikomiyaku_kakuninhyou.pdf http://www.ndpjapan.org/material/mochikomiyaku_sisin.pdf
Q.薬剤師の医療安全に関する意識が低く、すべて看護師から言われて改善することが多くて困っています。たとえば、病棟の薬品定数管理、ケモのミキシングについてなど、やってあたり前のことができず、どうやったら動いてくれるのかが悩みです。
A.共同行動の取り組みは、今までのように一部の安全管理担当者がやるパターンではうまくいかないようです。病院幹部が先頭に立って、取り組んでいく必要があります。そこで薬剤部長(薬局長)に対し、トップダウンで意識改革してはどうでしょうか。薬品の定数管理やケモのミキシングは、安全対策として有効であるだけではなく、病院経営にも寄与する部分です。
Q.薬剤スタッフが少数なため、看護師が業務の中で(ミキシング等)注射準備をしなくてはならないのですが、今のところ注射板、薬剤箱(患者個人用)を確認してミキシングという流れとなっています。患者数が多いにもかかわらずスタッフ2名ぐらいで準備しているため、スタッフの業務も多忙で責任等も多くなっています。看護スタッフも増員が必要と考えますが、なかなか進んでいない現状です。
A.マンパワー不足はどこも深刻な課題です。業務の流れを再確認し無駄な作業を排除するとともに、ミスが起きないよう、またはミスが起きても投与される前に防止できる歯止めをシステムに組み入れることが必要だと思います。
高張塩化ナトリウム注射剤について
Q.高張塩化ナトリウム注射剤は病棟配備をしています。事故事例等の情報を教えてください。
A.日本国内では、超未熟児に「10%ブドウ糖液」と「10%食塩液」とを間違って投与し、患者さんが高ナトリウム血症による脳内出血で死亡したという事 例があります。
http://www.47news.jp/CN/200406/CN2004060601002712.html
海外では、「5%ブドウ糖液」と「5%食塩液」とを間違って投与し、患者さんが死亡したという事例があります。(Medication Errors 2nd Edition, American Pharmacists Association, 2007, 403-405.)
Q.高濃度カリウム塩注射剤の全病棟保管の廃止は完了したのですが、高張塩化ナトリウム注射剤の病棟保管の廃止はできそうになく、推進チーム内でも廃止の必要性がないという意見が多数派です。高張塩化ナトリウム注射剤の危険性を教えてください。
A.日本国内では、超未熟児に「10%ブドウ糖液」と「10%食塩液」とを間違って投与し、患者さんが高ナトリウム血症による脳内出血で死亡したという事 例があります。
http://www.47news.jp/CN/200406/CN2004060601002712.html
海外では、「5%ブドウ糖液」と「5%食塩液」とを間違って投与し、患者さんが死亡したという事例があります。(Medication Errors 2nd Edition, American Pharmacists Association, 2007, 403-405.)
ハイリスク薬について
Q.「診療報酬によるハイリスク薬」ということの解釈が充分理解できていません。また、ハイリスク薬のとらえかたを「施設の解釈で」とされていますが、当院のハイリスク薬の基準で考えてよいのでしょうか?
A.誤った投与をした場合に、患者さんの健康状態に対して死亡を含めた深刻な影響をもたらし得る薬が「ハイリスク薬」と定義されます。危険薬のリストは、 〈NDP危険薬とすべき薬剤群Ver. 2〉、〈診療報酬におけるハイリスク薬〉、〈ハイリスク治療薬2009(じほう)〉などに記載されており、その中から院内採用品目を抽出し、医薬品安全管 理手順書に明記する等、院内に啓発することが重要となります。これらのリストすべてに記載されている薬剤は確実に「ハイリスク薬」と考えてよいと思いま す。また、各施設独自の基準で「ハイリスク薬」を追加してもよいと思います。
Q.危険薬リストはどの範囲で作るべきでしょうか? すべてリストアップすると約350品目となるので、特に重要と思われる薬品群に限定したほうがよいのではないでしょうか?
A.誤った投与をした場合に、患者さんの健康状態に対して死亡を含めた深刻な影響をもたらし得る薬が「ハイリスク薬」と定義されます。危険薬のリストは、 〈NDP危険薬とすべき薬剤群Ver. 2〉、〈診療報酬におけるハイリスク薬〉、〈ハイリスク治療薬2009(じほう)〉などに記載されており、その中から院内採用品目を抽出し、医薬品安全管 理手順書に明記する等、院内に啓発することが重要となります。これらのリストすべてに記載されている薬剤は確実に「ハイリスク薬」と考えてよいと思いま す。
注射指示の標準化とは
Q.「注射指示の標準化」とはどういったことをすればよいのですか?
A.「注射剤の指示は略称を避け、“1日量と分処方”使用せず、1回量指示にする」「注射剤の投与速度と規格(成分量や容量など)は必ず記載する」「誤解 を招く単位の表記をしない」「速度のみの継続指示やスタンディングオーダーなど、定型的でない指示も標準化する」、すなわち、注射指示を標準化し、マニュ アルを作成することです。注射オーダリングシステムを採用していれば、標準化は比較的容易に行えると思えますが、オーダリングを採用していない施設や一部 の診療部門等では、マニュアルに記載している事項を遵守していただくことが重要となります。
スライディングスケールについて
Q.血糖のスライディングスケールや低血糖時の標準化を進めようとしていますが、依頼した生活習慣病改善委員会の代表医師(内分泌)は「患者ごとに違うので、そのつど考えるしかない」として標準化に反対しています。何かよい方法はないでしょうか?
A.スライディングスケール(SS)については医師によっていろいろな考えがあり、さらに個々の患者で高血糖をコントロールするのが望ましいわけで すが、実際にはSSを使用せざるを得ない状況だと思います。しかし、複数のSSの存在は、業務の煩雑化のみならず、重大な事故の原因になりかねません。本 来はおふたりの先生のお考えを議論されるのがベストだと思いますが、まずお話ししやすい先生にご協力いただいてSSを作成され、「こんなに業務が助かる」 ということをアピールされてみるのはどうでしょう。以下のURLは参考になるかもしれません。
http://www.ndpjapan.org/material/ss.htm