目標2[周術期肺塞栓症の予防] Q&A

2010/06/02 追加

Q.当院では、全麻全例ストッキングとIPCを使用しており、フロートロンを使用しています。医療用でないと聞き、不安になりましたが大丈夫でしょうか? ルンバールのカイザーで知り合いの方が肺塞栓で死亡しました(ストッキングのみ)。当院では弾性ストッキングのみです。IPCも全例必要でしょうか? リスク評価をもっとくわしく知りたいと思います。当院では行っておりません。

A.周術期肺血栓塞栓症はストッキングとIPCのみの予防では死亡する患者を減らすことはなかなか難しいと思われます。これはこれらの理学的予防を主に行ってきた日本の予防が行われてからの日本麻酔科学会の集計を見るとわかります。またIPCを着けるといっても、いつまで着けるかという問題もあります。欧米において効果が薬物予防に匹敵するぐらいあると報告している論文は術後2週間くらい装着して報告されています。この場合には歩行開始後装着できる携帯型、充電式のIPCが必要です。IPCは薬物予防が難しい、出血リスクのある時に有用な方法であり、弾性ストッキングはDVTを減らすにはずいぶん意義のある方法なので、これらを十分に活用しながら、抗凝固薬を追加した薬物予防に病院として前向きに取り組む必要があります。また、医療安全全国共同行動の行動目標2のチャレンジ項目に術前スクリーニング(手術を前にして血栓症になっている患者さんを見つけ治療する)を推奨しています。術前に検索するか、あるいは歩行を開始する前に静脈に血栓がないかスクリーニングすることが重要です。これらを開始することで帝王切開の死亡は大幅に減少します。リスクの評価は、これらの薬物予防を行う段階を決めるために、それぞれの病院の受診されている患者さんの特性を踏まえて独自に作成するしか方法がありません。高齢者が多かったり、麻痺があるなど歩行できない患者さんが多い、高齢出産が多いなど薬物予防を早めに始めることを考慮する必要性は多数考えられます。それぞれの病院でご検討ください。医療安全全国共同行動はこれらの病院が取り組まれることにご協力いたします。

Q.院内でこの対策の重要性を共有しがたい場合、ボトムアップで考えていく方法に苦慮しています。

A.マニュアルを共通して作ることができない場合、発生率の高い診療科に主導権を預け、マネージメントするほうがうまくいく場合が多いと思います。この場合各科の医師のマネージメントをするために、もっとも重要な立場は麻酔科医師です。各科の医師は麻酔科の医師が言うことには耳を傾けます。ぜひ協力してもらってください。

Q.当院にはIPCがありません。弾性ストッキングは使っていますが、循環器PCIorCAGで、F穿刺により安静が必要です。シースを入れたままのため動かすことができない場合において、どうしたらよいか、ストッキングはずっとはきっぱなしでいいのか、8時間に1回ははきなおししたほうがよいのか、マッサージはその間禁なのか、疑問があります。af.PMIDDDF穿刺でシース抜去して1日後に脳梗塞に至ってしまったケースがありました。看護師として何が足りなかったのでしょうか? IVCフィルターは入っている人で静脈血栓をもっている人にはIPCは禁ですか?

A.循環器PCIorCAGの場合、ほとんど全例に薬物(未分画ヘパリン)が使用されていますが、長期的には抗血小板剤も併用されています。つまり、IPCなどの予防は不要となります。弾性ストッキングは歩行が難しい期間には着用させてよいと考えます。弾性ストッキングのケアについては1日2回から3回は脱がせて、皮膚炎やかぶれ、水疱などを生じていないか確認する必要があります。PCI後は血行障害によるチアノーゼも確認すると思いますが、この際弾性ストッキングには足底にモニタリングホールのつくられているものを選択するほうがよいです。チアノーゼは足底側の趾の腹部分で見ることを理解しておいていください。弾性ストッキングの着用方法については、これを指導する資格認定制度があります。日本静脈学会の「弾性ストッキング・コンダクター」認定制度(http://www.js-phlebology.org/japanese/sscc/index.html)がこれに当たります。全国で年間に6~8回くらい開催されていますので、ホームページで見て参加してください。医療安全全国共同行動の関連セミナー(http://kyodokodo.jp/event_list.html)としても紹介されています。今のところ医師、看護師、准看護師、臨床検査技師、理学療法士に受講資格があります。

Q.胸部外科(Lc)の術後に弾性ストッキングとエクスプレスを装着していますが、この季節(夏場)は患者さんより「暑くて足が蒸れる、はずしてくれ!」などの訴えが聞かれます。各勤務、一度皮膚観察をし清拭等もしたりするのですが、かゆみ等が出てくることがあります。皮膚トラブル等に対して、何か対策はあるのでしょうか?

A.理学的予防の最大の弱点は皮膚症状です。定期的に確認してかゆみの原因が乾燥肌ならば、保湿クリームをぬる、あるいはヒルドイドローションなどを塗布するのもよいかもしれません。ただ蒸れに関してはすべての製品がナイロン製品である以上、難しいと思います。ストッキングに使用されている柔軟剤や漂白剤がかゆみの原因となっていることもあるのでメーカーを変えてみるのもよいかもしれません。製品はメーカーによりずいぶん違います。DVTの予防に十分なエビデンスをもっている会社もあれば、ほとんどないところもあります。このあたりと着用感覚の両方を考えて最もよい製品を選ばれるとよいと思います。また1日着用すると早くかぶれる場合は夜間睡眠時は15cmの下肢挙上とし、昼間のみ着用させるということも選択枝にいれてはいかがでしょうか。このように、患者さんごとになるべく長く着用するように、またリスクに応じて期間や着用方法を決めるとよいと考えます。そうすると患者さんは自分はリスクが高いということを理解され、積極的に協力してくれるようになります。

Q.マニュアル作成にあたって、アドバイスをいただけますか? 各科の医師の考えがあり、統一するのが難しいと日頃感じていました。セミナーを受けてみて、レベル区分を明確にすることでおのずと対応も決まってくることがわかり、エビデンスに基づいたマニュアル作成をしていくための勇気をもらいました。

A.診療科ごとに肺血栓塞栓症の温度差があるのはやむを得ないと考えます。訴訟になりやすい、なりにくい診療科でも差が出ます。しかし、高率に発生する整形外科や産婦人科の先生に未分画ヘパリンの投与方法を聞く医師がいるのも事実です。リスクのレベルを科別に準備され、診療科別にある程度まかせながら対応されてはいかがでしょうか。ご健闘を祈っています。

Q.内科的長期臨床Ptのストッキング装着について「いつはずそうか」と考えていましたが、着用しているだけでも予防になっていることがわかりました。今後内科的Ptに対する展望があることがわかりました。

A.入院そのものがリスクであることを理解されたと思います。着用して運動してもらう、無理ならばその他の予防方法を併用するなど対応が必要です。