目標4[医療関連感染症の防止] Q&A
医療関連感染症の防止について (2010/05/27 追加)
Q.認知症で徘徊の症状のある患者さんがMRSA(++)咽頭培養者の場合は、どのようにして感染を防いだらよいでしょうか?
A.積極的な監視検査を行っている場合、当該患者さんの対応には陽性者のお一人としての対応が他の陽性者と比較して不十分に感じるかもしれません。しかし、咽頭培養陽性者が真の保菌者であるかどうか、まず鼻腔や腋下、鼠径部等の監視検査を行い、複数回これを繰り返すことで持続陽性の場合を慢性保菌者と定義します。慢性保菌者が施設内に何人いるか、把握できていない場合は症状のあるヒトだけを検査していることになるか前医での保菌状況を反映しているのだと思います。慢性保菌者は国民の数パーセントいますので、入院患者全体を毎週検査しない限り、保菌状況把握は40%程度に過ぎないと思います。日本では隔離するには個室すら足りない状況にあります。限られたリソースでそれぞれの施設の中で可能な最大の取り組みを行う以外に対応策はないかと思います。行動制限はMRSAに限定された問題ではないと思いますし、化膿創や呼吸器感染症症状など大量の排菌が予測されるMRSA感染症の場合にはよりしっかりしたスタッフケアを行うしかないと思います。
Q.施設を清潔に保つためにはどうしたらよいでしょうか?
A.施設環境は無菌的にはなりません。まず、見た目の清潔さを保ちます。患者ケア区域では最近、欧米では耐性菌の施設内流行状況に応じて環境清拭の回数を増やしたり使用する洗剤を低水準あるいはクロストリジウム・ディフィシル患者の対応として次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合が増えています。少なくとも医療環境においては自宅以上の清潔さが必要ですが、それすら守れない場合が多くの医療機関で見受けられます。これは、清掃要員の業務内容やその遵守の監査に目を向ける必要があることが調査で報告されています(契約内容そのものを見直す必要ももちろんあります)。
Q.バイアルびんの消毒(穿刺部位)に関して、アルコール綿の消毒ではだめだという医師がいるため、その時だけイソジン消毒にするなど、標準化できずに困っています。
A.イソジンは環境消毒にはあまり適しません。ヨードが素材の変質を招くからです。70%以上のエタノールによる消毒で十分です。
Q.手指衛生PPEの対策は重要なので、バンドル化やアルコールの設置等、整備を整えましたが、"SP"が十分に理解されていないためか、感染対策が充分に実施できていません。
A.指導者は正しい理解、個々の医療従事者にはHACCPのように適切な処置の流れを個々の業務においてマニュアル化する方法があります。もちろん、個々の医療従事者に十分な理解を得ることが重要ですが、SPの概念を個人単位で咀嚼して適切な対応ができるようになるまで、3年程度がかかると感じています。医療系の教育機関の初等段階からの指導徹底がSPの定着の近道かもしれません。
Q.医療関連感染症の防止のためのスタッフの行動が統一されていません。ポスターにしてNsステーション内に貼り出していますが、あまり効果がありません。
A.ポスターも慣れの現象が起こります。頻回のラウンドやインタービューを行うと、ホーソン効果で質的改善も得られることが多いので、キャンペーンを数か月単位で断続的に行ってはいかがでしょうか?
Q.大学病院です。新型インフルエンザワクチンの配布に関して、10mlの規格のものが優先的に配布されてきますが、18人の倍数で患者を集めることに苦慮しています。無駄をなくすためにいろいろ工夫(薬剤部で0.5mlずつ18人分をシリンジに小分けし、入院患者に使用し、当日残った分は外来患者に使っています)していますが、どうしても1日に2~3人分は余って破棄しており、もったいないと思います。何かいい方法はありませんか?
A.国家レベルの課題で、学会等を介して提言をして改善をお願いするしかありません。施策の問題です。安全な注射処置を遵守するためには、廃棄もいたしかたないと思います。
中心静脈(CV)カテーテル関連の感染予防について
Q.中心静脈カテーテル関連血流感染予防として、手術室で麻酔科医がCVラインを挿入する場合、マキシマルバリアプリコーションが望ましいとしても、滅菌ガウンの着用まで必要でしょうか?
A.CVカテーテルの挿入手技は衛生レベルを手術室と同等にするのが基本的な考え方です。したがって、術中と同様に滅菌ガウンを装着します。カテーテルやガイドワイヤが長く、着衣で汚染することを避けるためです。これら一連の運用により、感染のリスクは35%~1/4に減少することが多数報告されていますし、引用文献もCDCの血管内留置カテーテルのガイドラインに明記されています。
人工呼吸器関連肺炎(VAP)の予防策について
Q.人工呼吸器関連肺炎の予防として、標準予防策や吸引時の清潔操作、体位変換など一般的な対策は行っていますが、 VAP予防策に特有な推奨事項があれば教えてください。
A. VAPの感染率を下げる方策として、ガイドラインでは数々の推奨事項があります。単独で実施するのではなく総合的 な対策が求められます。特にIHI(米国医療保健改善協会)のケアバンドルでは以下の項目が挙げられていますので、ご参照ください。
※人工呼吸器ケアバンドル:一般に疾患過程を考慮して最善の療法をグループ化したもので、別々でも改善 するが一緒にすると非常に大きな改善が可能である。
バンドルの各部分が人工呼吸器関連肺炎に対する標準療法として構成されていることが科学的に十分に立証されている。
人工呼吸器バンドルは主に4つのケアからなります。
1. ベッドの頭位置を30度から45度にする。
2. 毎日「鎮静の休止」を行い、抜管できる状態か毎日評価する。
3. 消化性潰瘍(PUD)を予防する。
4. (禁忌でない場合)深静脈血栓症(DVT)を予防する。
http://www.ihi.org/IHI/Topics/CriticalCare/IntensiveCare/Changes/ImplementtheVentilatorBundle.htm
感染経路別予防策の実施について
Q.毎年の標準予防策を含め、感染経路別予防策の繰り返し実施による効果はどのくらいあるのでしょうか?
A.隔離予防策は感染予防の対応における概念を記したものです。標準予防策全体の評価は膨大ですので、ポイントを絞り検討する必要があります。効果判定を 行う具体的な方法として、手指衛生に関しては観察による評価等がありますし、針刺し切創予防策はサーベイランスの実施と評価が可能です。
手指衛生についてはJointCommisionの資料をご参照ください。
“Measuring Hand Hygiene Adherence: Overcoming the Challenges”
http://www.jointcommission.org/patientsafety/infectioncontrol/hh_monograph.htm
針刺し切創予防策についてはCDCのworkbookをご参照ください。
http://www5.wind.ne.jp/GUNRINGI/Kenkyuhan/kenkyuhan/biseibutu/siryou/BD/workbook.pdf
PPEの着用について
Q.PPEの着用法について、病床数(職員数)の多い病院ではどのように推奨したらよいか、実施方法を教えてください。
A.ビデオ配布、リンクナースやリンクドクター経由の部署毎の伝達講習会などがあります。また、研修終了者にシールを発行する、部署に研修終了者のシール を棒グラフ形式に掲示する、研修達成優良部署を表彰する、などの方法があります。
国のMRSA感染対策について
Q.MRSA感染対策として、監視培養を行うことがよいことは理解できますが、病院経営上不可能と思われます。もし国の施策として法律で義務付けされ、保険請求ができることになれば、MRSA感染対策は進むと思いますが、いかがでしょうか?
A.現在のところ、国内におけるエビデンスは充分ではありません。検査の義務化までにはいくつかの障壁を越える必要があります。
チャレンジとは?
Q.行動目標にある「チャレンジ」とは、何をすればよいのでしょうか?
A.共同行動のチャレンジ項目は、共同行動HPの「8つの行動目標と推奨する対策」http://kyodokodo.jp/index_b.html、 「支援ツール一覧」の目標別「ハウツーガイド」に明記されていますので、ダウンロードしてご参照ください。