目標5[医療機器の安全な操作と管理] Q&A

2010/06/18 追加

Q.MEの人数が少なく、研修に十分な時間がとれません。全職員への研修をどうしたら効率よくできるか、悩んでいます。DVD「医療機器の安全管理」(NDP医療安全教材シリーズ“医療が安全であるために”第8巻)を全部署で視聴したいのですが、できない部署もあります。また、経験年数のあるスタッフへの働きかけがむずかしいと感じています。

A.いろいろ困難はあると思いますが、まずは、多くの労力をかけずともできることから着手していく必要があります。一定の場所に何人でも集めて、DVD視聴会を実施し、医療機器を安全に扱うことの意識づけから始めるのもよいと思います。そこから次の活動展開が見えてくると思います。

Q.操作、設定のミスがなかなか減少しません。スタッフの知識不足もありますが、コスト面から機種統一が困難なことも一因です。

A.操作、設定のミスはどのようなことですか? どんな操作をまちがいやすいのか、一番多いようなところを掘り下げて調査し、対処してはいかがでしょうか。例えば、スタート時の確認ミスで設定をまちがえているのなら、その部分についてのチェックリストの使用など、部分的であってもインシデントから出発する対策の実施が必要と思います。最初から何項目ものチェックリストを使用しなさいというと、スタッフから反発されることがあるので、一つずつ積み上げていくという考え方に立ったらいかがでしょうか。要は、何もしないことが一番よくないということです。

Q.使用中、使用前点検のチェックシートによるチェックがまだ行われていません。実際にはどのようなチェック項目が必要なのか、また使用後のチェックリストの管理方法がわからず困っています。

A.チェックリストを使用する際、チェックのためのチェックにおちいるのが一番困ります。チェックは何のためにしているのかという意識づけがないと、形だけになってしまいます。チェックリストがどのように役立っているのかという実践を示すことです。チェックリストを使用して操作する場合と、使用しないで操作した場合をスタッフに比較してもらってもおもしろいかもしれませんね。

Q.古いタイプのポンプなのか、本体のうしろに「ポンプ用」「汎用」「ポンプ+汎用」の切りかえボタンがあり、そこの調節をしっかりしないために表面の滴数だけ合わせてヒヤリが出たことがあります。常に「ポンプ+汎用」で使用するよう、MEがボタンにテープを貼って固定していますが、何かもっとよい方法はないでしょうか?

A.スタッフが勝手に調節しないように、MEがテープを貼って使い方を限定したのはよいことだと思います。すべての看護師が機械の多様な機能を使いこなすことはできません。看護師によって使い方や操作方法が異なることが一番危ないのです。その病院で最も適した使用方法を決めてそれを統一することが、機種がいろいろある場合には必要でしょう。特に切り替えボタンについては、制限を加えておかないと危険です。

Q.輸液ポンプ、シリンジポンプの勉強を行って、全職員(看護師)が習得したはずなのに、月日が立つと以前の自分のやり方にもどっている現状です。各病棟のME機器トレーナーが再指導をしていますが、「忙しい」「自分は大丈夫」等と言われて、なかなか再指導が充実できないのが悩みです。

A.ポンプの使用手技についての更新制度を作ってはいかがですか? 事例を示して、その事例のように操作をしてもらい、評価リストに基づいてトレーナーがチェックをして 毎年更新するという方法を看護部内で制度化するということです。成果はすぐには見えないかもしれませんが、意識づけとしては重要だと思います。

Q.203床の病院でシリンジポンプ30個、輸液ポンプ30個程度ありますが、中央化できておらず、MEもいません。チェックリストをどのようにつくればよいのか、知りたいと思います。また、個人のME教育が入職後1週間では、理解度、収得度がどの程度なのか疑問なのですが…。

A.MEがいなければ中央化することは無理なので、定期点検については調度課に管理してもらうこととし、日常点検は各病棟の看護師が行うことになります。ですから、そのための手順を標準化し、それを厳守することを教育・訓練する必要があります。まず貴院のポンプ教育をプログラム化して、新卒・既卒を問わず、入職時には1週間から10日以内に一定の教育・訓練を行うということにしてはいかがでしょうか。共同行動のホームページに、チェックリストや知識のカタログとして参考になるものを用意していますので、活用してほしいと思います。

Q.病院全体の医療機器に対する意識レベルを高く保つためには、どのような方法がよいのか悩んでいます。

A.医療法の改訂により、医療機器安全管理責任者を院内に配置することが義務づけられています。教育は重要責務ですので、院内でご自分の職責としてどう行動していくか、それを組織として明確にすることから進めてみたらいかがでしょうか。

Q.ポンプが機種統一されておらず、輸液セットも混在しています。勉強会を定期的に行ったり、注意書きの札を下げても、輸液セットの取り違えによる事故が起こります。ポンプの統一には費用と時間がかかります。まだ使用できるポンプをどのようにするのか悩んでいます。

A.多種類の機種のポンプとデバイスが混在している状況は避ける必要があります。この部署ではこの機種を中心に使用する(厳密ではないにしても)等、区別していくことが大切です。そうしていく中で、計画的にポンプの機種統一を考えるべきでしょう。その際、貴院のポンプ使用状況――どんな場面でどんな薬を注入しているかなど―――に合わせて医師や薬剤師とともに機種の統一化をはかっていくような雰囲気づくりを進めていくことが必要だと思います。そして、スタッフにその場でどのポンプを使うか、どのセットを使うかを判断させることは減らしていくべきだと思います。そうしたところを標準化することを考えていかないと、いくら勉強会を重ねても、取り違えはなくならないでしょう。

Q.医療機器の研修は看護部の年間計画に組み入れているのですが、教育研修が多く、後回しにされることがあります。毎年、全職員に行っていくことで技術や対応方法が身に付いていくと思うのですが、「事例がないので必要ない」等、話し合いにもなかなか積極的になってもらえません。

A.看護部の教育担当の方に理解してもらえないのは困りものですね。目標5チームは、医療機器を現場で適切に安全に使用していくために、意識向上とその教育プログラム作りの方法について学び、他の機種においても実践できるようにしていくことを大きな目標としています。そのためのとっかかりとして5aでは看護師の誰もが日常的に使用している精密機器であるポンプをテーマとしました。医療機器は日進月歩で開発され、看護師に求められる医療機器の扱いは今後さらに増えていくでしょう。それを見越した真剣な対応が必要なことを看護部の方々に理解してもらうためにも、頑張ってください。

Q.現在ポンプの使用に対するチェックリストを使用し、看護師全員へのテストを施行中です。DVD「医療機器の安全管理」(NDP医療安全教材シリーズ“医療が安全であるために”第8巻)を見てもらい、自己学習のうえで実施していますが、全員満点を目標としているため、なかなか進みません。驚くほど曖昧な知識なので、講師側として手立てに悩んでいるのが現状です。

A.そうですね。ふだんから使っているのに、大事なことを知らなかったということがあります。知識テストを共同行動ホームページに掲載していますので(http://kyodokodo.jp/index_b.htm)、これも参考にしてください。使用機種について機械本体のデザインや呼び名は異なっているかもしれませんが、ポンプの動作原理についてはテストの中でおさえていますので、この点については、扱う看護師の使用責任の範疇になりますので、満点をとれるようにしていきたいです。何度でも満点になるようにチャレンジを進めていってください。

Q.【1】1人の患者に10台以上ポンプを使用する場合があります。始業、使用中、終業点検の記録に何か工夫はないでしょうか。できるだけシンプルで、続けられる方法を教えてください。使用前チェックはやっているようですが、記録が不完全です。【2】ポンプ・呼吸器の問題から外れますが、生体情報モニタに関するルール(アラーム設定、データ管理、日常点検)を知りたいと思っています。

A.【1】管理記録の問題もなかなか前に進まないことの一つです。現場は忙しいので、そこまではできないと主張します。しかし、本当にそれでいいのか、ここは認識を変えていく必要があります。ポンプを10台も使うようなユニットであればなおのこと、正しく作動しているかのチェックこそ重要です。記録方法はシンプルが第一ですので、よいフォーマットやその実践方法について、各施設の事例紹介をお願いします。【2】生体情報モニターに関するルールはあまり作成されていないのが現状ですが、生体モニターが本来の役割をしていくために大切なご指摘と考えます。今後の課題です。

Q.安全を啓蒙する側と臨床側の温度差が大きく、会議(複数)や新聞、電子カルテに掲載等で伝達・連絡を思いつく限り行っているのですが、臨床現場のスタッフはまったく知らないことが多くて困っています。使用マニュアルは写真や図解等を盛り込んで作成していますが、「忙しくて見ている時間がない」との理由で現場(臨床)では活用されていません。マニュアルを参照しながら安全確認をしていれば起こらないであろう事象が、多くあります。マニュアルを提供する側としても、作成意欲が低下してしまいます。どうしたら皆に使用してもらえるマニュアル・環境づくりができるのか、工夫を教えてください。

A.医療安全管理者の方からのご質問でしょうか。回答者も同じ立場として、同様の悩みを持ち続けています。でも、自分自身があきらめないことですよね。ポンプなどの使用マニュアルが看護師等の医療者のためととらえてしまうと、忙しいから見ていられないというような意見が出てきますが、患者にとってはどういう意味があるのかと考えてみれば、おのずと答えは出ます。常に患者安全が最優先であり、そのために看護師は何をするべきかということから、マニュアルの存在そのものを見直すことも必要であると思います。

Q.輸液ポンプ・システムリンク時ポンプの使用基準についてお尋ねします。当院では10ml/h以下のものをシリンジポンプ使用としていましたが、薬剤によりそのような区別が難しい(感染のリスク、利便性などから)という指摘を受けました。一般的に基準はあるのですか? 他院はどのようにしているのでしょうか?

A.病院事情(所有台数)や患者背景は様々ですから、これだという基準は言いにくいところがあります。利便性とか感染のリスクといった項目別にメリットとデメリットを比較して、今は自分の病院はこうするというように決めていくしかないのかなと思います。ベターを選ぶということですが、例外は必ずあることも理解しておく必要があり、その中での標準化ということになります。ちなみに、回答者の施設では、シリンジポンプの使用は2ml/h以下の薬液の注入量での使用としています。ポンプが3ml/h以上に対応できる流量制御方式のポンプであるということもありますが。

Q.当院では、呼吸器についてはMEが1日2回チェックに来てくれますが、担当看護師が各患者さんの呼吸器設定からアラーム設定と実際の値を専用のチェックリストでチェックしています。輸液ポンプ・輸注ポンプについては各勤務の初めと終わりの計2回、専用のチェックリストでチェックをしていますが、ICUはポンプ類が6~8台と多く、現場からは「大変」との声もあり、実際にはあとからチェックするといった場合もあります。他施設ではチェックリストはどのように活用をしているのでしょうか? また、武蔵野赤十字病院HPに掲載されているチェックリストの活用方法も教えていただけたら幸いです。当院では以前、ポンプ輸液量を記入していましたが、チェックリストが指示と同じとの思い込みで流速ミスがあり、現在、輸液の流速についてはチェックリストに数字は書かないことになりました。しかし、チェック時にわかりづらいとの意見もあり、病棟によっては統一がなくなってます。実際に流速を記入した状態で使用して、そのようなミスは起こりますか? 

A.チェックリストの使用は、確認のためです。自分がポンプを開始しようとしている時、この使用設定で間違いがないかを確認する行為であり、指差し呼称という行為で確認します。こうした意味づけを周知しておかないと、チェックリストの記入内容を指示と思い込むということが起きてしまうのでしょう。チェックリストに流量数値を書き込むか書き込まないかという対策論議の前に、チェックリストの使い方についての認識を高めておく必要がありますね。武蔵野赤十字病院では確認項目をたどって指差しで自己確認する方式の仕様になっているので、数値は書き込みませんが、チェック内容について記録として残すのであれば、記入する必要があります。1つのインシデントが、まれなインシデントなのか、頻回に起きているインシデントなのかも見極めて対処することが重要と思います。

Q.薬剤に関しての輸液ポンプ・シリンジポンプの使用基準を決めて使用しているのですが、薬剤がどんどん変わり、新しいものが出ると改定しています。希釈したものはシリンジポンプ、同じボトルは24時間以上使用しない(輸液ポンプ)等、基本的にものは変えられないのですが、シリンジポンプと輸液ポンプの使い分けをどのようにしているのか、教えていただきたいと思います。当院では、①ボトル使用のものは輸液ポンプを使用し、感染のリスクを減らす、②シリンジポンプを使用するものは、更新回数を可能な限り減らし、更新時の操作リスクを最少にする、③更新時は2人の看護師で確認する等と決め、輸液ポンプを使用する薬剤名のリスト、シリンジポンプを使用する薬剤名のリストも決めています。ポンプの台数にも限りがありますし、各部署で違うと看護師が配置変更の時にとまどいが生じ、リスクが増えます。効果的に使い分けているケースを具体的に紹介していただきたいと思います。

A.質問の内容を拝見しますと、相当にきめ細かく基準を決めて実施されているので、実のところ頭が下がる思いです。むしろ、適切な基準をもって実施されている施設の事例として、積極的なご紹介をお願いしたいと思います。回答者の施設の一例ですが、輸液ポンプよりもシリンジポンプのほうが厳密に注入されるので、危険薬で希釈してシリンジポンプを使って注入する薬液を標準化し、濃度を一定にする希釈法をとっています。薬剤としては、ノルアドレナリン、シグマート、ヘルべッサー、ハンプ、メキシチール、ワソラン、ドルミカム、ノボヘパリン、タルデパン、塩酸モルヒネ、フェンタニル、ヒューマリンRなどです。シリンジポンプは通常50mlまでの使用になるので、更新即ち付け替える機会は一定にあるので、その際のリスクや感染リスクとなるとベストと言いにくいこともあります。しかし、いずれも危険薬ですので、第一に、誰もがまちがいにくいように、いかに業務プロセスをつくりこんでいくかにあると思っています。

Q.施設の規模が大きくないため、中央管理ができません。分散管理していますが、保管スペース等の問題、診療科によっては機器の使用頻度にバラツキがあり、発表された内容通りにはならないことが多々ある場合、どのようにすればよいでしょうか? 当院なりの工夫はしていますが、上を目標にすると、かなり壁が厚いと感じています。また、院内の機器に対する危険度の認知が低いことも、現状で困っている項目の一つです。特に200~300床程度の施設向けの参考事例があると助かります。

A.中央管理ができていない病院で、効率よく機械を使用するには限度があります。悩みはあると思いますが、「当院なりの工夫をしている」ことが大切な財産です。保管管理については5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の考え方を活用すると、さらによくなると思います。どんなに少しでも改善を進めていくこと、それが安全行動の狙いです。動いていかなければ何も前には進まないのですから。目標5aはポンプという「モノ」を対象としていますので、改善が見えやすい側面もあります。中央管理でなくても、ポンプを適切に使用していくための、院内の活動デザイン(200~300床規模での安全管理の仕組み)を共に考えてみませんか。